VistaからLandscapeへ

D.C.サイドエピソードをまた最初から最後まで(#1-13)見ました.サイドエピソードの初音島は火星(アクア)の海に浮かぶネオ尾道である,というのは僕のなかでは既に常識ですが,とくに#4がそう思わせます.芳乃さくらが路地のお店へ初めて入ってみるところから始まって,不思議さんを追跡し,絶景かなーという眺めへ繋がってゆく様子は,不思議さんのケット・シー成分を差し引いてもなおネオ・ヴェネチア臭さあふれる風景の並びでした.僕が見たところ尾道という土地は,尾道水道を越えて向島を臨む片面の眺めしかもたないのですが,初音島は島であるので尾道水道側と外洋へ開けた海側(サイドエピソード#7で萌先輩が浮かんでる海)との両面の眺めを持っていて,先に初音島の見晴らし感覚に慣れていた僕は,実際に尾道へ行った時,その眺めをどうも狭く感じたのでした.土地の風景を島にして浮かべるという火星式の入植は,見晴らしへの期待を高めているのですねぇ.

縦に長い視野から横に長い視野へ突き抜けてゆく風景の並びは,見ていて素朴に気持ち良いものです.それは僕にとっては,と言うべきかも知れなくて,つまり縦長の枠は人体を収めるのに向いているし,横長の枠は風景を収めるのに向いているように思われまして,例えば漫画では縦長のコマが増えてくると,人間の話,悪く言えば狭っ苦しい話になるんじゃないかな.隘路迷路,いや,愛の迷路を抜けて鮮やかな視覚の世界へ.さよなら人間.僕は人間を描くのが苦手なので縦長の紙ではいつも構図に困ります.独りの人間では間が持たないので,複数の小さい人を置いてその間へ無理に背景を置こうとする.

とかいろいろ語りつつも,風景が気持ちよく並べられてるのはまぁサービスであるとして,#4で一番素敵であるところは,不思議さんを追っていたはずのさくらが,猛烈に走った後に綺麗な眺望へ辿りついてしまうと不思議さんのことなんか忘れてそれに見惚れてしまってる,というあたりではないかと思います.そのとき多分,さくらは頭の中が真っ白で,魔法とか難儀なことぜんぶ忘れてそうで.

疏水太郎