石川淳「鷹」/天沢退二郎「光車よ、まわれ!」

父の入棺に際して僕らが添えたのは,洋画のDVDと吸いさしだったマイルドセブンの箱である.循環器の病であり,煙草がそれを悪くしていたと後から判ったが,父とそれとは切って離せる間柄ではなかった.もう思う存分吸えば良い,と手に持たせてやったのであるが,最近の煙草であるから「喫煙は、あなたにとって心筋梗塞の危険性を高めます」云々と表示されていたのは桐棺の中であまりに馬鹿げた構図となった.

石川淳の「鷹」では,公社の男が万人の幸福のためのもっとも上等のたばこを学問した.こちらはプライドがあって胸がすく.ただし,そのために男は公社を追われるのであるが…….

本作も例の天沢退二郎が選んだ10冊の1つであるが,僕が読んだのはそのためではなく「さくらむすび」から繋がりを辿るうち行き着いたもので,10冊に含まれると気付いたのは後になってからだった.ここで,たばこ密造団あるいはそうしたまつろわぬ者共の首領は少女であり,キューロットから出た男の子のような脚,マントをなびかせて空に舞う影は巨大な蒼鷹の姿を成すといった,かぶき好みで描かれているのは,光車の龍子を思い出すところである.龍子については「黒っぽいスカートがひらいて,うすぐらい部屋の中にまるで黒い鳥が立ちあがったように見えた」(「光車よ、まわれ!」第二章)とあるが,これをかの首領と並べてみると,鳥になぞらえる点は等しいとして,あとは少女の驚異をズボンから伸びる脚に見るかスカートの中に見るかという助平大戦である.男ってやつは…….また,小学生の龍子が最後に鞭をふるいだすのには驚いたものであったが,これは首領の少女が鞭使いであるのをそのまま持ってきたように思われる.

明日語も地霊文字の源流であるなぁ.運河の風景も含め,総じて光車の水源地であることがよく判る.

あと,龍子さんのスカートといえばもちろんこのひと

疏水太郎