「最近読んだおはなし」より

宇野浩二「蔵の中」 たいへん和みます.そのままコピーしてしまいたい語り口,と暮らしぶり.

泉鏡花「星あかり」 眠れない夜のおはなし.こんな夜があったよねぇ.僕が描くよりも何十倍もその通りです.

川端康成「古都」 虹の立つふもとの世界のおはなし.京都に異界数あれど,まだ間近にこんな場所が残されていたのだなと驚かされます.あの山の向こう,虹の立つふもとにある世界,つまりその空想の北山杉の村には,わたしとうり二つの女の子が住んでいるのでした,ってそれはどれほど可憐な夢見でしょうか.映像化作品ぜんぶ見た後で書くつもりでしたが人に薦めた手前,まずは一言だけ.

なお,北山杉の村を想ったり村へ向かうときに虹は伴われます.
「北山に多い虹のなかを通して,その音楽,歌声を聞いているような…….」(祇園祭)
「北山の方角に,虹がいくどか立った,午後であった.」(松のみどり)から始まる一節.「虹はふといけれども,色が淡く,上までの弓形は,描いていなかった.」北山杉を連想させる垂直の虹で.

もちろん北山杉の村というのは京都に実在するわけですが,作中では京の町家のお嬢さんが夢見るところのそれであってね.

石川淳「小林如泥」(諸国畸人伝より) 松江なので.あと気にいった一節があるので.「しかし,如泥はたった一つ,おのれの住む町のために,町のひとびとのために,記念すべき贈物をしている.今日なお灘町に存するところのトンド宮(歳徳宮)がそれである.もっとも,文献を欠くために,これは如泥作に擬せられてはいるが,灘町のひとは擬すどころか,宮の全体がそっくり如泥ひとりの手に成ったと信じているようである.よろしいかな.ここは考えるなんぞというバカなまねをするよりも,町のひとの信ずるところをただちに信じておいたほうがよい.こういうものを絶対の真作という.ジョテイさんのつくったトンド宮である.」言い伝えを列挙する果てにこれであります.伝説とは奇異にまで高めてこそ信心されるのね.

石川淳「安吾のいる風景」 夢二の女の目と安吾の目が似ている!とかそういう話.ラヴい.

あまり工夫なくmixiに書きっ放しだったのだけど,貯まってきたので載せときます.

疏水太郎