七夕の夜,長生殿にて

僕の革靴は長く履いていたせいか雨の日に踵がきゅうきゅう鳴くようになりました.子供靴のようで恥ずかしいから雨の日は大学の廊下をつま先立ちで歩いて,だけど機嫌のいいときにはやっぱりきゅうきゅう鳴らして歩いていたのですが,三十越えた男がそれはどうかと思い直してこのほど革靴を新しくしました.これで音は鳴るまい僕も大人の仲間入りと思ってたら,この頃の雨降りで靴底全体がきゅるきゅる変な音を出す靴だと判って,長靴みたいでよけいに恥ずかしくてそろりそろりと歩いています.相当ビビッドな音で,例えるならことみのヴァイオリンのような感じ.

そういうこともあって先日のお花見では水姫に靴の素材のことを尋ねたのでした.これほど科学が発達してなぜいまだに革靴なのでしょうか.水には弱いし傷がつくし変な音はするしで,全てにおいて革靴を上回る超素材や超構造がありそうなものです.あとお花見ではやたら靴ひもが解けて二人に待ってもらったのですが,僕はちょうちょ結びできないということが最近判明しつつあったのでした.雑誌とか束にするとき,解けまくりでショックでした.形はちょうちょっぽいのでたて結びという奴.さっきまで練習して,たぶん,うまく結べるようになった.じゃあ,次は正しいスキップの仕方を勉強しようか.教えてくれる人のあまりない当たり前のことが世の中たくさんで.

学べばいい,手をかければいいというのは正論ですが,形状記憶ワイシャツというのはやはり大発明だった思うので,その調子で形状記憶靴ひもを夢見たりします.あとどうして靴下は片足しか出てこないのでしょう.片足だけの寂しい靴下が十足ほど出てきてため息をついたことがあります.三足千円で買ったわけでもないのに小人さんの仕業でしょうか.必ず二足で一緒にいるような関係記憶靴下を発明した人には個人的に発明大賞を差し上げたいです.あるいは,靴下を揃えてくれるお手伝いさんがいるようなお家へお嫁に行きたい.

きゅうきゅう鳴らないスーパーシューズに誰でも結べる超ストリングス,ことみが見上げる管弦楽隊,ウェディング.比翼連理の靴下で白馬に乗った玄宗皇帝,僕は蓬莱の玉の輿に乗って,これがほんとの超ヒモ理論であるとかないとか.

疏水太郎