ウソニワメモ(3)

「で,もう早く終わって,プラモ作りてぇ.」(p.71)どうにも窮まってしまった時に,田村くんが走る人であったのに対して,牧生くんは作る人であることを予感させる一文です.牧生くんが中山りあのことを想って側にいる局面(「心の内(後)」「月の川」)では却って,彼は彼女のことを見ずにプラモ作りへ心血を注ぎます.集中がいるのであまり返事とかできない.彼女のことが大切であるほどにプラモの完成という彼なりの魔術的儀式が必要なわけでね.中山りあはその術式を理解しているのか側で邪魔しないようにしていて,なんだかうらやましい二人ですね.

田村くんも牧生くんも同じインドア派であるのに,田村くんが走ることを術式として選ぶのはおそらく松澤小巻という女の子が走っていたがためで,もしも彼女と出会ってなければ,田村くんは相馬広香に対して走るのではなく,村千鳥の直垂に折り烏帽子,というような鎌倉魔術を選んでいたかも知れなくて,いざ鎌倉,という言葉が走ることとして具現化するには,走る松澤小巻という触媒が必要であったように思われます.

ウソニワから逸れてきましたが,つまり,松澤小巻が走っていたからこそ田村雪貞も走る必要があったのだ,という話をことさらに言いたくなった.あのどこの校庭にもある麻薬的なループを,二人なんだかぐるぐるで.

疏水太郎