送り雛は月色の

ウソニワのせいでまだ眠らせてもらえない感じです.全き春が訪れる前に.

一月頃のことでありましたか,新聞で唐蝋梅(トウロウバイ)なる花が紹介されていました.梅ではなくロウバイ科の木で,冬に咲く花は珍しいので側にいた母に聞いてみると,ずっとむかし,という言葉では想像できないくらいのむかしの思い出を話してくれました.僕の叔父,つまり僕の母の弟が小学生だった頃,校内や家の外の世界で見つけた花をよく姉のために持って帰ることがあったそうです.そのなかのひとつに小学校の校庭で見つけてとってきた冬のその花もあったということです.それはどんな可愛い弟だろう!須藤さん家のゆずがママのために外のものを持って帰る様子が思い出されましたが,その叔父も,もう僕が子供の頃にこの世を去りました.

全き春が訪れる前に,もう一題.僕らの祖母はほんとうによくしてくれて,姉が生まれてから初めての桃の節句に,その年,ものがなくてなかなか大変だったという世情のなか雛壇を贈ってくれて,それは家にスペースがあった何年かの間は毎年のように組み立てられて,僕もよくお飾りの小さな引き出しを開けたり閉めたりして遊んでいた記憶があります.だけど,そのうち場所がなくなって,ミシンの上にお内裏さまとお雛様だけを飾るようになって,いつしか出さなくなっていました.さて,先ほどの叔父の幼稚園から高校まで一緒だった友人が奈良の特産,一刀彫のお家でして,祖母は僕の姉の成人式の祝いに今度はその方の彫ったお雛様を贈ってくれたのでした.高級な品であって.昭和56年のこと,その同じお雛様を全国植樹祭につき行幸のあった昭和天皇が逗留先の奈良ホテルにてお買いあげになったといういわれのものでした.しかし,お内裏さまとお雛様がひとりずつのその立派なお雛様も,タバコの煙で悪くなるということで結局出さなくなっていました.それが今年,タバコを吸う人が家からいなくなってしまって,また,家を大整理したときに出てきたこともあって,居間のテレビ台の横っちょあたりには新しいお仏壇と古いけど新しいままのお雛様たちが,なんだかまだ慣れない感じで並んで座っておられるのでした.

僕の五月人形はいつどうなったのだったでしょうか.お雛様が欲しいと思ったことはありませんが,もしも僕が自分の小さなお庭にいてもらうモビルスーツを決めねばならないとすれば,それはやはりサイコガンダムMk-IIにお願いしたいと思うのです.僕の場合,ロザミアっていうかプルツーなんですが.それで,ストライクガンダム,というか僕の場合,主役機はZZガンダムということになるのですが,僕の想像の夜に月光を曳くルナチタニウムのそれは,お舟に乗せて流し雛とするのが良いのでした.

疏水太郎