終わらないアリスのお話

介錯「鍵姫物語 永久アリス輪舞曲」(1)-(3).ときに突き抜けてくる情念と,その周りに散りばめられたあほ可愛らしさがとても良かったです.アニメでは読まれることのなかったきらはの心の物語が明らかにされるのですが,読んだ人が赤面しちゃうくらいあの分厚い一冊分お兄ちゃんのことしか書き記されていないのでした,なんてのはきらはの本だけかと思ったら,作中で読まれちゃう分に関してはみんなそういう恥ずかしい本ばかりっぽくてね.まだ判んないけどキサちゃんのも多分そうで,本一冊分みっしり書き記されたラブレターを恋人同士や恋敵同士で奪い合ってるというたいへん乙女な話です.

須羽さんの小理屈が有人たちの前でそのまま小理屈らしく振る舞ってしまう様子がやたら時間を掛けて描かれてるところも好きです.須羽さん愛されてるよなぁ.

アリスマスター,は何やってんだか.僕が彼ら彼女らとの勝負に敗れたならそのとき僕はもう自分の物語を差し出しているのであって(そしてこのWebページのような場で衆目に曝されるのであって),相手の物語に飲み込まれるリスクを負わずして何が物語蒐集か.彼ら彼女らと対峙することなくして物語なんてあるものか.と,一蒐集家としてもの申したい(参考1).リデルはそこんとこ判ってるし,アリスマスターがどういうわけで今みたいな考えになってしまったかはまだよく判んないのだけど.

漫画版を読んだそもそもの動機はアニメ版を見ていろいろ考えたことの答え合わせのためでした.同じ宮崎なぎさ監督によるアニメ版D.C.の大きな特徴として,純一・さくら・音夢の三者の恋愛関係においてさくらにチャンスのないことをシリーズの冒頭から明らかにしている点が挙げられます(参考2参考3).アニメ版永久アリスでも2話を見ていると早速きらはがありすに対して勝ち目がないように見えたので,この旗幟鮮明さは逆に言えば,先行した漫画版においてきらはにも勝ち目があることを示しているのではないかと予想されました.結論を言えばその通りで,有人・きらは・ありすの三者の恋愛模様にはまだぶれがあって勝ち目は誰にもありそうです.宮崎なぎさはアニメ版制作にあたっていつものメソッドで,つまり漫画版を読み込んだ上でエピソードの前後入れ替えや鍵となるアイテムを別の文脈で利用することによって(参考4),原作の見た目を残しつつ,短いシリーズで完結させるべくぶれの少ないストーリーに落とし込んでいるように見えます.今回鍵となるアイテムは第1話のチーズケーキで,ありすが買ってきたチーズケーキをきらはが食べるか食べないかで二人の関係が大きく違ったものとなっています.漫画版が食べる方で,アニメ版が食べない方ね.漫画版の二人の関係はおよそ良好で,少なくともアニメ版のようにキサちゃんから微妙と評されるようなものではないのです.アニメは漫画とぜんぜん違う話になるんだろうなぁ.

漫画版の話に戻ると,ぜんたい,きらはが可愛いと思います.幼い頃,お兄ちゃんがほしいと神様に願って,本当にお兄ちゃんがプレゼントされてしまったという場合の心境には,結構複雑なものがあるのではないかと想像されます.

疏水太郎