サナララ(3)

三重野涼.ある日,前の学校のクラスメートの,ほとんど話したことがなかった人の近況を聞いて,少しだけその人のことを思い出して,放課後の昇降口で自分の靴の紐がなぜだか堅く無茶苦茶に結ばれていて,脈絡のないその二つのことから,なぜだかたまらなく泣きたい気持ちになってしまうことがあったとき,一体そこからどんな物語が発想できるだろう,というお話.作中にあった賢治の授業のイメージを発展させるならばそれは「雁の童子」の境地であって,胸がせまって訳もわからず泣きたくなったり泣けなかったりするということは,何かと関係がありそうでいながら,その想像の手に確かな掴み所を渡さずかわしてゆくものであります.

三重野さんの正体について,彼女が夜の教室へ行きたがった時点で既に確信していた僕がいました.虫の知らせといいますか.

疏水太郎