小川未明「港に着いた黒んぼ」

この世の行き違いが通信に基づくものであるとして,それは例えば電池が切れていたとか電波が届かなかったとかの電気電子的な不都合で,電池残量を示すバーやアンテナの本数としてデジタルに思い知らされがちな昨今です.それはたかだか三本のゲージで,後悔にあたってはつまらないものであるほどに遣る瀬が無くなります.

僕は生まれながらにして姉の弟なので姉の立場よりは弟の立場のほうがよく判るはずですが,受け止める先のない気持ち,つまり遣る瀬無さというものは立場とか人間を越えたもので,それは姉が弟を想う気持ちであるとか弟が姉に想われる気持ちであるというよりも,どちらでもないような,自分が弟なんだが姉なんだか判らなくなった気持ちの上で,ただようように感じられるのでした.

あの結末を魔がさしたにせよ何にせよ姉に帰するものとはどうもしたくない.

僕の好みとして「野ばら」と甲乙つけがたいところにある大切なお話です.

疏水太郎