微熱少女と必殺カレー

からだがなんだかぽかぽかとする,顔も真っ赤で汗がにじんでる,これってもしかして恋かな?と思案するみさき先輩の前に,いつも通りのカレー皿,雪乃五月だけにきっちり五枚が積まれていました.恋というにはあまりにカレー臭いそれは吊り橋効果ならぬカレー効果で,熱い視線の先に想像されるのが彼氏ならぬカレー氏であったことに気づいた先輩は一計を案じまして,浩平くんへしきりにカレーを勧めた真夏の食堂,顔を真っ赤にして食べる彼に,ねぇ,私を見て何か感じないかな,と惚れ薬でも盛ったかのような勢いで尋ねるのでした.すると浩平,なんだ先輩,今日は体調でも悪いのか,たったの三杯でいいなんて,と言ったとか.そんな,あいかわらずのオチで続いてゆくような日々があったとか.

それはそうとしてToHeart2のアニメの話.大好きな人と二人きりでいるところへ別の面子が増えたら機嫌が悪くなるもので,珊瑚はそんなことすらも判ってくれないわけだけど,瑠璃としてはそういう鈍さも一緒くたに珊瑚のことが好きなのでこれはもうしょうがないわけです.第10話は第9話の繰り返しで,このパターンは繰り返す毎に友達の存在が確かになってゆくため全く珊瑚の思うツボです.珊瑚の手でサッカーロボがメイドロボ(イルファ)へ改造されるにあたって,瑠璃としては珊瑚やイルファ自身が思うほどには改造の前後に同一性を認めないのですが,それも一つの道理で.このみが朗らかに言ってのけるようにメイドロボの喜びは女中仕事にあって,つまり,サッカーではないです.サッカーロボとメイドロボとが同一であるところには珊瑚の天才があって,そのかけ離れた情熱とそれをやってのける技量とを,これもまた瑠璃は愛しているから納得しうるのでしょう.自明さというのは理由を説明できないところにあって,天才の理路を受け入れて愛するというのはそういうことで,天才天才と連呼しましたが,むしろそうした自明さに心奪われてうっかりと巻き込まれてゆくところに毎日の生活があります.

そうすると,このみの天才は母親ゆずりの必殺カレーであるということになります.必殺カレーの必殺成分は愛情だそうですが,そんなこと言ってのける彼女たちのなかにやはり揺るぎない日々はあってね,瑠璃がイルファのカレーを受け入れるに際してはなるほど,どちらかといえば小さじ一杯,惚れた弱みが必殺のポイズンです.

疏水太郎