fluorit #5

fluorit #5

「希望の星を見つけたあとはどうするの、」

「うん、あ、考えてなかった。そうだね、じゃあ、その星と一緒にまた旅に出るよ。なんてったって、こっちには”希望”がついているんだから、川の果てどころか世界の果てまでだって行けるさ。」

キノが軽くウインクすると、二人は大きな声をあげていっしょに笑い出しました。

「キノみたいな人がもっとたくさんいたら、星はなくならなかったかも知れないわ。」

そういってホタルはキノにほほえみかけようとしました。でも、それはなぜだか瞳からあふれそうになる涙のせいで、形をなすことはできませんでした。続けて何かをいおうともしましたが、それも声にはなりませんでした。

「えっ、どうしたの、いま何ていったの、」

キノの心配する声も耳に入らないかのように、ホタルはそのままうつむいて体全体を小さくふるわせていました。キノは突然のことに途方にくれて、考えつく限りのなぐさめの言葉をかけましたが、それが無駄と分かると、ただ優しく肩を抱いて彼女を見ていてあげるのがいいように思いました。そうしてしばらくすると、ホタルはようやく落ちついたようで、小さくうなずくと、何かを決心した目でキノをじっと見つめ返します。

「ううん、なんでもないの。それより、ねぇ、ひとつ約束をしてもらえないかしら、」

「えっ、あ・・・うん。」

「あなたの中にある、星との『絆』を忘れないでいて。それだけ。」

「・・・うん、約束する。」

そういい切ったキノの顔は、それまでのような子供らしい無邪気さをふくんだものでなく、こんなとき、この少年はとても頼りがいのある感じに見えるのでした。すると、一呼吸をおいて、ホタルのまわりにはあの光の帯があらわれます。また潤みはじめた彼女の瞳が、抗しがたい気持ちを無理矢理制する頑固さにゆれているように見えて、キノはなんだか不安な気持ちでいっぱいになりました。そして、さっき胸がどきっとしたのは、けしておじいさんのことを思い出したためだけではなかったことに、ようやく気がついたのでした。窓の板はいつの間にかどこかへ消え、ホタルの体は次第にその輝きを増してゆきます。今度は何か強い思いがキノの胸にあふれてきましたが、それは言葉にならないまま、両の目を真白い光が撃ちました。

「ありがとう、キノ。あなたに会えてほんとうに良かった。あたしは、もう行かなくちゃならないけれど、キノのこと、絶対に忘れないから。」

彼女の突然の告白がさっきの不安を裏付けたので、キノはとても驚きましたが、いまやするべきことはただ一つでした。

「ホタル、」

キノはそう叫ぶと、鋭く突き刺さるまぶしさにも負けず、光の中心にあるはずの星、彼女の体を強く抱きしめようとしました。

「さようなら、」

けれども、その短い言葉を最後に、ぱっ、と光は弾け、窓から強い風が吹き込みました。小さな炉の火は消えて、キノは薄暗がりの部屋の中で一人、ずっと空を抱き続けたのでした。