fluorit #4

fluorit #4

ホタルはこれまでにいろんな街をめぐってきました。ある街では、ひどくこわれた天体望遠鏡が裏の路地に打ち捨てられていました。ある街では、騙りとなじられた占星術師が、やくざものの錬金術師にその職を変えていました。昔、多くの人がその目に見ていた星たちは、単なるまやかしだったのでしょうか。

ようやく窓に板をたてた部屋は、少し暖かさを感じられるようになってきました。風の吹き込まないことよりも何よりも、ホタルの放つ光のキラキラとまたたく様が、なぜだかキノの心を温かくしました。ホタルの旅の話にキノは聞き入ります。そして、彼はいちいちおおげさな身ぶりで、相づちを打ったり、彼女と一緒に悲しい顔をしたりするのでした。

「でも、この街に来て良かった。今でも星のことを思い続けてくれる人に会えたから。」

ホタルはキノの目をじっと見ます。すると、キノは恥ずかしそうに笑って、少し目をそらしました。

「じつはね、川の果てにある未来の星っていう話は、もともと僕のおじいさんがいってたことなんだよ。」

「なぁんだ。感心して損をしたかしら。」

キノはもう一度恥ずかしそうに笑うと、おじいさんの話を続けました。おじいさんの聞かせてくれた、風の生まれる場所や雲の帰るところについてのうわさ話、水の音や鉱石の色についての伝説、そして星の記憶。それは、人々の心の片隅にある思い出のかけらと、そこから紡ぎだされる物語の中に輝く、小さな星の確かな記憶。

そして、そんなおはなしの終わりにはいつも、おじいさんはこうつけ加えるのを忘れませんでした。

『望遠鏡のレンズで切り取るのは星たちの世界、水槽越しに見るのは魚たちの世界、色眼鏡で見るのは人たちの世界。いつも人間はガラスの小窓から世界を眺めているんだってことを、忘れちゃあいけないよ。でも、ただ夜空を見上げれば満天の星を眺めることが出来るように、窓からガラスをはずすことは簡単に出来るんだ。そのことも忘れちゃあいけないんだよ。』