fluorit #3

fluorit #3

「これは、なんの絵かしら、」

ホタルは机の上の書きかけの図面を指していいました。丸や四角の線、そしてそのそれぞれには小さな数字が添えられています。

「僕の飛行機の設計図。これで星を探しに行くんだ。」

「星、」

「うん、僕の”希望”の星。昔、南の空には川のように続く星の列があったのを覚えているかい。えーと、」

キノは、一冊のノートを開きます。それはキノがおじいさんからもらったノートで、紺や栗色の細い線が見事な星の地図をえがきだしていました。ホタルはキノの指さすところを、ぐっとのぞきこみます。

「ええ、知っているわ。神話の時代、この地方を流れていた大河の名をもつ星座。」

「その列の最後にはひときわ明るい星があったよね。昔の言葉で『川の果て』という名前の星。川が時間の流れをあらわしているとしたら、川の果ては未来。未来にはあんなに明るい星があるんだ、って僕はあの星にはげまされてきたんだ。」

「ふうん、星は未来の輝き、」

そういって、彼女は感心したようにうなずきましたが、すぐに表情を暗くしてこう続けました。

「でも、もう、星はなくなってしまった。」

ホタルは窓の外をながめます。もちろん、外に星はひとつも見えません。灰色の雲の向こうにぼやけて見える月の光と、彼女の体の淡い光とが、悲しげなその顔をうすく照らしだしました。キノは、その光景に胸がどきっ、とするものを感じました。彼のおじいさんが、星のことなどすっかり忘れてしまった大人たちと出会うたび見せた表情と、彼女の表情はまるで同じだったからです。夜空を切り取る窓の枠と、その中に浮かびあがるホタルの姿を見ているうちに、キノはふと、おじいさんが口ぐせのようにいっていたことを思い出しました。そして、

「そう、だから僕はあの星を探しにゆくのさ。これはそのための飛行機なんだ。”希望”があれば、きっと他の星も戻ってくるだろう?」

そういって、にっこりと笑いました。