fluorit #1

ある晩のこと、夜空を飾る幾千の星たちが、いっせいに姿を消してしまいました。

人々は驚いて、なにか怖いことのあるしるしではないかと恐れもしましたが、しばらくして何も起こらないということが分かると、たいして問題に思わなくなりました。方位を知るには磁石がありましたし、夜も月と街灯があれば十分に明るいですからね。

ただ、消えた星たちがどこへ行ってしまったのかと、人々はうわさしあいました。ある者は、星は全て海の底に落ちてしまったのだといいました。ときどき海面近くに映る淡い光の群の正体は、その星たちの影だというのです。またある者は、星は夜行性のけものたちに飲みこまれてしまったのだといいました。それで彼らの眼は夜にいっそう輝いているというのです。

それから10年ばかりが過ぎた今、そんなうわささえも聞かれなくなって、ほとんどの人は星のことなど忘れてしまったように思います。けれども、この前の春宵祭の晩に、私は星たちの消息を伝えるこんな話を耳にしました。