第八夜 天輪儀

鼠の宝

「わたし,王様になんてなれやしないわ.」

「王様になるのは,けして難しいことではありません.
 ですが,貴方にしか出来ないことなのです.
 四葉さまは四葉さまのままでいてください.
 我らとしてはただ,
 貴方がこの鼠の宝をお持ちになればそれでよいのです.」

そう言って,王は闇色のビードロを投げました.

「これは天輪儀.裏表ある星影の,裏面だけを張り合わせた手鞠です.」

天輪儀のつるつるとした表面は闇を映し出して,
日や月が描く輪をさかさまに,光のない輪を幾重にも放ちます.
輪がぐるぐると回るのを見ていると,一度だけ天輪儀の中が透き通って,
いつもの夜空の星影が,そこに瞬いているような気がしました.

「なにぶん地の底なので垢抜けないものですが,
 きっと貴方の旅のお役に立ちます.
 さあ,これを持ってお帰りください.」

(Zaurus MI-E21 + PrismPocket, 2003/5/6)

第七夜 王位継承

王様

ネノクニの王は,四葉がこれまで出会った中で最もちいさな鼠でした.
王は重い病に伏せっており,手足は痩せ,お腹だけが風船のように膨れ,
このかわいそうな鼠が王様であることは,
立派な王冠をかぶっているお陰でかろうじて想像することができました.

「四葉さま,貴方をさらって来たことには深いわけがあるのです.
 私の体はこんなに小さくなって,もうこの国はおしまいです.
 ここは世界の因るところ,夜はここより生まれます.
 ここはおしまいの国.一日の終わりの国,明日の始まりの国.
 おしまいの国がおしまいになれば,この世の本当のおしまいです.
 だからどうか,貴方がネノクニを受け継いでください.」

(Zaurus MI-E21 + PrismPocket, 2003/5/5)