ハルヒ嬢にそういう考えに至って欲しくないので,彼女の世界改変能力なんてものを信じていない僕がいます.
文脈?・・・さっき犬さんが食べてったよ.
疏水太郎
storybook.jp for christmas 12.2184
ハルヒ嬢にそういう考えに至って欲しくないので,彼女の世界改変能力なんてものを信じていない僕がいます.
文脈?・・・さっき犬さんが食べてったよ.
疏水太郎
1.
陽当たりの良い山麓の街で迎えた夏は,いつも雨上がりのような新しい色をしていて,空は生まれたままの姿で眩しく輝いていた.プールは夏至過ぎの強い光線をはね返して,銀河の午睡.けれども,そんな僕の詩人気取りのつぶやきはいつも,高度一万メートルの屋上猫に笑われてしまう.屋上猫は僕のことをはるかな上空から見ているのだ.
そして,からかうような声だけが届いた.
「溺れてしまうのはプールも星も同じだな」
「何だよ,星に溺れるって」
この銀河の中へ飛び込もうとしていた僕は,すっかり興をそがれてしまった.屋上猫の言うことはいちいち勘にさわるけれど,一筋の光をプリズムで分けるように,僕の発見を彼は別の色と向きで解いてみせる.それは春,ある辛い決意を胸にこの街へやって来た僕の心を不本意ながらに元気づけていた.
例えば,舗装道に立つかげろうを見ていると,灼けたアスファルトは油が体に障るからいけない,人はコンクリートの白熱をこそ愛するべきだと言う.屋上猫は有り難いことに僕の健康にも気を遣ってくれる.じゃあ今度,学校の屋上で一緒に昼寝しようかと誘ったら,そんな低いところまでわざわざ降りてゆけるか,と言って怒られた.学校の屋上は白いコンクリで固められている.言われた通りに仰向けになって背中を焼いてみたら,目を開けていられない眩しい光の中で,全身が写真のネガになった気がした.
他にもこんなことがあった.廃ビルの鉄階段が,給水塔へ続いてることを知った夕方,秘密の場所を見つけたと喜ぶ僕に,彼は水を差すように言った.
「そこはまだお前の来るべき場所じゃない」
「どうしてさ.僕はこんな空が欲しかったのに」
「いいや,そこは本当に危険な場所なのだ.見ろ,鉄材がもう腐っているだろう.お前はまだこんな場所で,自分の命をもてあそぶようなことをしてはいけない」
屋上猫が真剣な声で言うから,夕日に翳る階段から血の匂いがして怖くなった.意味はぜんぶ掴めなかったけれど,ともかく僕が心惹かれるような場所には,いい場所といけない場所の二つがあるというのだろう.
このとき見上げた,赤黒く乾く給水塔の姿が,いつまで経っても忘れられない.
2.
まれに意見の合うこともあった.雨の日はずっとバスに揺られて,おもちゃを水に浸けたような,びしょぬれの街を行くのが好きだった.
「当然,座席は一番前だな,」
「もちろんそうさ.自分の前にはタラップと窓の他は何もない」
「そのときバスは街を泳ぐのだ」
「僕らは暗く滲んだガラス色の街を,重くかき分けて進む」
先生と生徒がときどき一緒になって遊ぶことがあるだろう.僕と屋上猫とは,ずっとそんな関係だった.
いつか,よだかに聞いてみたら,屋上猫は星になれなかった猫だという.誰かに触れたり話したりすること,その全てを失わないと星にはなれないのだ.
「じゃあ,どうしてよだかは僕と話ができるのさ」
「なにごとにも,抜け道はあるものなんだよ.それが彼には判らなかったんだ」
よだかはこの街ではじめて星になった鳥として,周囲から一目を置かれていた.彼は星になるための方法を,時々人に教えるという.試しに尋いてみたら,僕に余計なことを教えると屋上猫に怒られるから嫌だと言って,口を閉ざしてしまった.
こんな風に,屋上猫を知らない者はいない.そもそも,僕だってタバコ屋のお婆さんから教えてもらったのだ.
「ケムリを見るのが好きかい,」
「うん.高く昇るから」
「あんた,あんまり高いところばかり見てるとね,周りから手を合わされる人になっちゃうよ」
「尊い人になるということ?」
「尊いかもしれないけれど,手を合わされてしまったらもう死人と同じさ.それよりも,死んでから手を合わせてもらえるように生きるのがいい」
そうして,きっと気が合うといって紹介してもらったのが屋上猫だ.お婆さんに教えてもらったと告げると,彼はなんだか不服そうに返事をかえしてきた.そして,自分は高度一万メートルの屋上猫であると名乗った.
3.
夏の光は街を次第に漂白していった.この新しい街へやってきた時の気持ちが色褪せてしまう前に,僕にはやらなくてはならないことがあった.
僕は憧れの人を追いかけて,ここへ来た.そしてきっと,僕の求める人はあの屋上猫なのだ.雨や星,夏や屋上のことを話すその語り口は違っても,言ってることはあの人そのものだった.それに,僕が近くに居るのをまるっきり無視できるほどあの人は非情になれない.だから,姿は見せずに声だけを伝えて,僕が正体に気づいたと知ったら,また逃げ出すつもりなのだ.
聞きたいことが山ほどあった.どうして僕の前から姿を消したのか.なのにどうして僕のことを気にかけるのか.彼のやっていることは,矛盾だらけだった.だから僕は彼に悟られぬようその居場所を突き止めなければならない.
屋上猫は他の猫たちの縄張りに現れないから,僕は彼らの助けを借りることにした.竹薮の向こうにある小さな駅は,ホームの白さばかりが目立つ.廃線のレールの上には鉄道猫が座り込んでいて,過去を走る列車の音に耳をすましていた.鉄道猫と屋上猫は友達だっただろうか.
「同じ猫だからといって一緒にしてもらっては困る.私は過去を聞く猫.屋上猫は未来を視る猫なのだから」
線路はとても熱かった.鉄道猫はその上を裸足で歩いてゆく.線路は雑草に半ば埋もれながら輝きだけを残して続き,いくつ夏をくぐり抜けても,季節の果てまで辿りつかないことを示していた.
僕は,伸びきったレールがちぎれないよう慎重に後ろをついてゆく.線路は緩い勾配で,気がつくと随分高いところにまで来ていた.
「彼がいつも前を向いていたからこそ憧れた.君は彼の後をついてゆくのが好きだった.だから,彼に振り返って欲しくはなかった.違うかね,」
「おまえは僕らの過去を知ってるんだね」
「そうじゃない.私は君の足音を聞く.人は我々猫のように足音を立てずに歩くことはできない.君の足音は,レールの前にも後ろにも伝わってゆく.私はいつだって,君が今たてた足音しか聞くことができない」
4.
かつて二人は,屋上で語り合った.
「あなたは,僕の星なんです.憧れの星」
「・・・ぼくは,そんな遠いところに居るんだね.プロキシマ・ケンタウリだって四・二光年も向こうだ」
「遠くなんかないです.僕の初めて乗ったボーイングがその高さを飛びました.高度一万メートルのアナウンスがあったのは,なにもかも冷たく清浄に結晶する場所でした.そのとき,ここがあなたの居る場所なんだって思いました.僕はそこにやって来たのだと」
「数字が違うじゃないか.ああだめだ,君はやっぱりぼくのことを理解していない.そのとき,成層圏の境と星とのなす比がいくらかってことこそが,大切なんじゃないか」
彼が言うことはまるで意味が判らなかった.だけど,判らないからこそ,判るようになるまで追いかけ続けていい,そのことが嬉しかった.
「引き返すんだ,」
声が聞こえる.鉄道猫はもういない.ここはもう,彼の領分ではなかった.
「引き返すんだ,」
もう一度,声が言う.ここは,人が暮らし,街を往き,森に安らぎ,笑い,空を見あげ,太陽を浴びる.この世の全ての地上がここで,声は,その遥か彼方の屋上から聞こえてきた.
「ぼくはいつも,この高みで,君に『引き返せ』と命じるだろう.ぼくは,この先にある,まがまがしい光のことを知っているから.君が引き返すうちに,ぼくはいくぶんかこの光の中を進み,君が通るための陰をつくって待っていよう.だから,今は引き返すんだ」
「どうして,あなたは僕の前から逃げようとするの,」
「ぼくが逃げるんじゃない.君が帰るんだ」
逃げていたのは,僕のほうなんだろうか.だけど,僕はいつまでも憧れていたかった.憧れることが間違いだなんてことがあるだろうか.
「ぼくが君の星であるために,ぼくは君の前に立ちふさがらなくてはならない.さぁ,ぼくの命令を聞くんだ.君がぼくとともに歩いてくれるならどれだけ嬉しいことかと思う.だけど,そうすると君は自分の中の星を,失ってしまうんだよ.それは,どれだけ悲しいことかと思う」
僕の中で,憧れの人であることと友達であるということは,けして同時に有り得ない.だけど,ほんとうに彼の言うことが正しいのだろうか.彼は,どこまでも僕より前を歩かなければいけないのだろうか.なによりも僕のため,僕が憧れるために.そして,それをどこまでも追い駆けてゆくことが,僕が僕の中の星を守るということなんだろうか.それを確かめたくて,ここまでやってきた.けれども,強い決意で来たはずなのに,僕はまた,これ以上近づくことができない.
「もう時間だ.ぼくらはこんな風にしているわけにはいかないんだ」
そう言って彼は,もう一千メートル,高い場所へと駆け昇った.高度一万メートルの屋上猫は,高度一万一千メートルの屋上猫になった.
判らないから,また一千メートルの道を行く.僕たちは,どこまで高く行くのだろう.いつか,空と宇宙との境を越えて,この距離は星のスケールで計られるかもしれない.一千メートルが一千光年になる.そして,星ほどの距離がようやく,僕が星座を見るときのような意味もなく神聖なこととして,僕たちを関係づけるのだろうか.憧れるってことは,こんなにも馬鹿げた想いだったのだろうか.
(2000/12/1)
疏水太郎
よほど遠い過去のこと,秋から冬にかけての短い期間を,私は,変なサークルの一員としてすごした……というような話は有り難いことに僕にもあって,二十歳前後のころ,好きなキャラクターの絵を描いて教養学部校舎に貼って回っていたこと,それが自分の特権であるように思い込むことの出来たその頃のことは,ミッキーさんたちのやっていたことを真似ようとしたものに違いなかった.B2と呼ばれるその委員会は新入生の僕と先輩のミッキーさんオギーさんの三人だけであり,仲の良かったふたりの間に僕が入れてもらうような形で,つまり相当のところ彼らの流儀によって活動されたサークルであった.B2というのは大学の書籍部(Book center)のうち2番目(本部構内書籍部の次)に設立された店舗という意味の生協組織内における用語であって,秘儀というのはそうした団の名前から始まるものである.生協書籍部の本を宣伝するための店舗内や機関誌における企画がいちおうの仕事となっていたが,例会は話し合いそのものよりもそのためのレジュメ製作に熱を入れるといった具合で,たとえばオギーさんのレジュメは佐野元春へのLOVEに彩られていて,僕のレジュメにはLOVEが足りなくていけないといつも文句を言うのだった.生協の学生委員には事前のレジュメ作成を重んじる伝統が見られたが,ふたりはそれを好きに解釈して自己表現の場としていたようである.
ミッキーさん,いや,さん付けで呼ぶと怒られたのであるが,人慣れない僕が先輩を気安く呼ぶことなどできなくてこれは最後までさん付けで通したのである,そのミッキーさんが当時熱を上げていたのが榛野なな恵の「Papa told me」であり,そのハイソな生活っぷりと素敵な娘さんに「おとーさん」と呼ばれることへの憧れが,ミッキーさんを強く突き動かしていた.本人もよく言っていたことであるがミッキーさんはお金持ちのぼんぼんであったので,実現する可能性を本当に考えていたのではないか.何か普通でないことをしたくて仕方ない人であり,かといって具体的ではないままに,一緒にベンチャーをしようとかいつも僕を誘ってみたり,これは実際,学生のうちに有機栽培の食品かなにかのWeb通販を手がけていたようだったのだけど,もう僕がお会いしなくなってからのことなのでよくは知らない.そして,いつかも書いたことだけど,彼女を追いかけてエジンバラへ旅立つ前,数年ぶりに部屋へ誘われた.部屋には小さく綺麗な工夫が増えていて,自分で料理などできるようになって,一歩,知世ちゃんと信吉氏の世界へ近づいたように見えた.今ごろは美しい奥さんや聡明な娘さんと一緒に暮らしているのかもしれない.
僕がB2の一員としてすごした頃のこと,Papa told me について忘れられない出来事があった.ミッキーさんが知世ちゃんに「おとーさん」と呼ばれたい気持ちの高じたあまり,そうしたお気に入りのコマを拡大コピーし,販促と称して店舗内に貼りまくったのである.漫画も置いていた書籍部であるが,まぁ,よく許してくれたものである.そういうわけで僕の大学の書籍部には入り口から知世ちゃんが「おとーさーん」とお出迎えしてくれる,という時期がしばらくあった.自分が好きな作品についてそんな風にアピール出来るということは衝撃的であって,だから僕も貼り紙をして回ることを思ったのだった.教養学部の校舎にときどき見られた新歓のポスターでも公演の案内でも政治的アピールでもない貼り紙たちは,たぶんそんな風になにか貼らずにはいられない気持ちによって生まれたのであって,僕はミッキーさんのようなびっくりすることをやろうと思って,A3とかA2とか誰もやらないような大きさの紙で,べたべたと掲示板を汚して回った.僕がミッキーさんと違ったのは正当な手続きによるものでなく勝手に貼っていたという点とアーケードゲームの女の子(リムルルとかウェンディーとか)を愛した趣味の違いであり,これはB2がなくなった後に僕が精を出し始めたその校舎を根城とするサークルの流れである.僕の根っこはどうしてもハイソと相容れなくて,ミッキーさんの進んだ方向へゆくことは出来なかったのだけど,真っ白な新入生だった僕を恵文社やMEDIASHOPへ連れ回し,おされ文系へいっとき染め上げる一方で,ミラクル☆ガールズやモルダイバーを見せてくれたのも,竹本泉が描くところの男の子と女の子がぺたぺた触れあう愉悦や須藤真澄の描く美少女について教えてくれたのもまたこの人であって,こちらはまだ僕のなかに深く根付いている.
はるもいで Papa told me について触れられたことにすごいびっくりしたので,なにか書こうと思ってたのだけど,なぜだかこのタイミングになりました.
疏水太郎
たくさん生徒が出てくるとゆりえの体のちっこさが目立つわけで,この人がみんなに可愛がられてるのは多分にちっこいためであるなぁと思わせるのでした.
あとは階段の話.校舎の内外,屋上へ続く階段,給水塔へのハシゴなど女の子たちが学校の階段,梯子段をあらんかぎり使いこなすお話でした.もちろん,光恵が一橋家の玄関前を昇り降りしたり,
街の人が神社の階段を上がったり,最後の空を飛ぶところなども含めて全体的に上下する話であるのだけど,山海がせまった尾道の見上げたり見下ろしたり対岸を眺めたりするような風景を,同じように狭くて上下や対面のある校舎の配置にぎゅっと織り込んでるところが面白いと思います.つまり,尾道の魅力とはそのまま校舎の風景にあったのです.
疏水太郎
別件はわりと楽に片付きそうに.
初めは一人で作り込むようなコンテンツ用途を考えていたのですが,グループウェアとして喧伝してしまったあおりでそっちが期待されたり,自分もその気になったり.盛り込みすぎ?いやここまでならまだ.
アカウント管理はWordPressというよりはグループウェア寄りにしたほうがいい.
ページ毎に設定するのはいずれ手間なのでページのグループ化や継承も必要だろうけど,いちお1ページだけでも無限空間あるので先送り.
このへんは研究上運用しているシステムの置き換えが目的なので,付箋ソフトとして期待してる人にはリリースが遅れる点,申し訳ないです.
疏水太郎
ページ毎の設定.暫定.メモ.
疏水太郎
Webの世界に配置デザインを持ち込むことがポジログの狙いですが,CSSによる配置デザインが従来的なDTPにおける配置デザインと大きく違うことはよく知られています.CSSによる配置デザインはページ制作者の意図と閲覧者の意図,それに加えブラウザ制作者の意図などさまざまな意図を重ね合わせた結果として生まれます.このとき,ページ制作者の配置デザインに関する意図はどの程度反映可能でしょう.
ページ制作者が絶対座標上に配置する意図は必ず裏切られます.あらかじめ幅と高さを設定したつもりのブロックも,閲覧者がフォントサイズを変えるとたいてい意図したものにはなりません.しかし一方で,要素の大きさが変わったとしても反映できる配置デザイン上の意図というものも,十分に有り得ると僕は思います.
疏水太郎
暫定.メモ.
赤字のパスはユーザが変更可能(PositLogConfig.pmで設定).
バージョンアップ時に,ディレクトリ構成自動変更CGIを提供します.
疏水太郎
positlogの話はこちらのdevカテゴリで続けます.
疏水太郎
これまで quick hack で作った分でも,実際の場に持っていったらマニアな人なら使いこなせるというところまでできてしまったのだけど,ちゃんと作ろうとするとやはりものすごい手間が待ち受けております.しかしもう一踏ん張り.
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